ノーマルデイズ 地獄の例大祭編・前編 〜夏コミ、覚えていますか?〜

プロローグ


ここに、二冊の本がある。



水を吸って膨張し、擦り切れてしまったそれらは
最早お世辞にも「本」とは呼べない代物と成り果てている。
そしてここにもうひとつ、7年前に起きたとある事件の記憶がある。
それは何も知らない一人の男が
「夏コミ」と呼ばれる戦いに参加した忌まわしい過去だ。
この物語は、そのとある男が7年前の過去と向き合あった
新たな「戦い」の記憶である…。

始まりは5月1日

事の発端は、相楽のブログに書かれた「今年の例大祭に参加します」という記事からだった。
今、とある教祖様が夢中になられているダンス並にオレが夢中になっている「東方Project」のお祭りに参加するという宣言は、激しくオレの胸を掻き立ててしまったのです。
で、その衝動からこんなコメントを彼のブログに残してしまいました。



するとこんな返信が。



つまり男は度胸。何でも試してみるもんさ」と彼は言っているわけですね。
…しかしオレには決断する上でひとつの難点があります。
それが何かというと、7年前に参加した夏コミのトラウマです。
あの時は自分の事をオタクだと認識もしていませんでしたし、事前の心構えも何も無かったので、例えるならそれはレベル1のままいきなり魔王の城に放り込まれるようなもんだったのです。
結果、魔獣のような迫力を湛えた無精髭やポニーテールや禿やデブの猛者の方々に揉みくちゃにされて、心に大きな傷を負う事と相成ってしまいました。
まぁ今思えばあの時手に入れた月姫ファンディスクの「歌月十夜」は当時の何倍もの価格で取引されるようなプレミアアイテムにまでなってくれたんで、行った甲斐は十分にあったとは思うものの、心の傷はプライスレスなので手放しで喜べるような結果とはとてもじゃないけど言えません。
が、いつまでも「コミケ」と聞く度に部屋の隅でガタガタ震えてしまうようなチキン野郎のままでいて良いわけでもないでしょう。
これももしかしたら過去を乗り越える良い機会なのかもしれません。
というわけで、オレはこの日「博麗神社例大祭」への参加を決意してしまったのです。
…これが、あの7年前の再現になるとも知らずに。

5月24日 AM10:00

で、日付は変わって5月24日。
とうとう例大祭に参加する為に現地へ向かう日がやってきてしまいました。
前日までに入場に必要なカタログや、資金やら新幹線のチケットやら心構えなどの準備も済ませましたが、いくら準備しても不安というものは完全に拭い切れるものではありません。
相手は同人界で今最も注目を集めている東方Projectです。
どう考えても自分の思い描く通りに事が運ぶような存在ではないので、目的の物が手に入るのかとか不安は山ほどあります。
…が、それよりもまずは東京へ辿り着けるかが問題でしょうな。

オレ:…オレ、電車に乗るのも数年ぶりなんだよな。


しかも新幹線に至っては修学旅行以来というブランクの空きっぷりです。
こんなんで本当に大丈夫なんでしょうか?

はじめての新幹線

不安とは言え、流石に専門学校時代に毎日通っていた駅なので仙台までは余裕で到着する事が出来ました。
なのでやっぱり真の敵は新幹線って事になるわけですな。
以前一度乗った事があるとはいえ、あの時は引率されるがままの事だったので「乗った」という回数に入れて良いのかも疑わしく思えますし。
ってわけで今回が自力で乗る初めての新幹線なので、改めて気合を入れ直して窓口へと向かいます。

オレ:あー、すいません。今から東京まで向かう新幹線で一番早いのってどれですか?
駅員:えーと、それだと10時21分発のやまびこですね。こちらの席をお取りしてよろしいですか?
オレ:はい。


で、チケットを渡して指定席の券と引き換えてもらい、指定のホームに行って座席へと到着。
そして待つ事数分であっという間に東京への道が開けてしまいました。
…うわっ、滅茶苦茶簡単じゃん!!
電車と何も変わんねえよ…。
心配して損したわ…。

東京に立つ

新幹線に揺られること約2時間。
とうとう列車は東京駅のホームへと到着しました。
慣れない乗り物で軽く酔ってしまいましたが、今の所結果は上々です。
後は連絡していたワッツと相楽に合流すれば良いんですが、これもまた探すまで苦労しそうな予感がします。
結局迷って電話して駅中駆けずり回って例大祭どころの騒ぎじゃなくなるんじゃないかと…

オレ:あ。


そんな事を思いながらホームに降り立つと、ひとつ隣の降り口の前に何やら見慣れた二人組みの背中を発見してしまいました。
ありゃ間違いねぇ。
ワッツと相楽だ。
魔物の群れはまだこちらに気づいていないようなので、このままバックアタックを仕掛けることにします。

オレ:いよう!
ワッツ:うわ、びっくりした!
相楽:いつの間に後ろに!?


やはり案の定二人は見知った顔でした。
何か思った以上にとんとん拍子で事が運んでくれて嬉しい限りなんですが、その分余計な運を使っている気がして仕方ありません。
…うーん、明日大丈夫なんだろうか。
まぁ、今から悩んでも仕方ないので、とりあえず余計なことは考えずに昼飯を食いに行くことにします。

オーダーしたのにすぐ来ない 〜狂気のうどん〜


オレ:まさかゴールデンウィークから一月以内に再会できるとは思わなかったな。
ワッツ:ほんとだよ。と言うかこんな異常事態になるとは思わなかった。
相楽:東京に斎君が居るのは新鮮ですよ。


…まぁ、基本的に地元どころか家からも動かずに遊んでいるような男だからな、オレは。
突然ここまで出張ってくる事なんて異常事態以外の何でも無いのかもしれん。
とか話しつつ、電車へ乗り込みます。



で、着いた先は秋葉原でした。
うーんやっぱここに来る事になったか。
昨今のこの町の話題性には目を見張るものがありますが、その分ある種近寄りがたい雰囲気もあります。
でも7年前とどう変わったのかという部分が気にならないわけではありません。

オレ:…あれ? っていうか飯食いに来たんだよな、オレら。
ワッツ:ああ、そうだよ。
相楽:秋葉原の方が下手な所よりおいしいご飯のお店が多いですよ。


何、そうだったのか!?
ここで食える物はメイド喫茶のオムライスぐらいなもんだと思っていたぞ、オレは。
で更にその「アキバには上手い飯屋がいっぱいある」という理論を裏付けるかのように、目の前には「AKIBA_ICHI」という洒落たレストランビルが堂々と構えていてびっくり。
す、すげぇ…。
秋葉原ってこんなに変わってたのか…。
早速中に入ってみると、ラーメン屋や焼肉屋の庶民派から飲兵衛も納得の居酒屋まで、ありとあらゆる飲食店が軒を連ねていました。
とりあえず疲れていたのであっさりした物を食べたいと思い、その中の「築地食堂 源ちゃん」という魚メインのお店で昼食を頂く事にし、メニューをオーダーします。

相楽:ほっけ定食をひとつ。冷やしうどんつきで。
ワッツ:じゃあ鯛どんぶりで。
オレ:あ、オレも鯛どんぶりお願いします。うどんもつけて。
店員:かしこまりました。


数分待って現れたのは、胡麻だれの掛かった何とも美味そうな丼でした。

店員:こちらお好みで出汁をかけて、鯛茶漬けにしてお召し上がりください。
オレ:あ、はい。


そういうわけなんで半分を別の器によそって、お茶漬けにして食ってみました。

オレ:う、うめぇ!


胡麻だれのコクと出汁の旨みが合わさり、絶妙なハーモニーをかもし出している…。
更に熱い出汁によって程よく加熱された鯛の身が食感に良いアクセントを添えていて、飽きが来ない味に仕上がっているじゃないか…。
こういう料理はテレビでしか見たことが無かったので、尚更に美味しく感じます。

オレ:でも高いな。これに味噌汁とかがついているとは言え、1100円だもんな。
相楽:なあに、東京なんてこんなもんですよ。


…うん、まぁそうだよな。
宮城と物価を比べちゃ不味いよな。

オレ:そういや相楽のはすぐ来たのに、オレの冷やしうどんはまだ来ないんだな。
相楽:言われてみればそうですね。


と言いつつ相楽が伝票を確認すると、急に彼の表情が曇りだしてしまいました。

相楽:…斎君。非常に残念なお知らせが。


その直後に彼から手渡された伝票には冷やしうどんの数が1個になっていたからさぁ大変。
…あの店員さん数聞き間違えやがったな。

オレ:まぁでも、十分腹はいっぱいになったから丁度良かったかもな。


そんなわけで、さっさと残りの飯を平らげてこの店を後にしました。

己が眼を疑い絶望に叫んだ路地裏

飯を食った後は、その足で秋葉原散策へと向かいました。


オレ:ああ、この辺まで来ると面影はあるなぁ。


7年前は店の入り口で堂々とエロゲーの叩き売りとかをやっていてちょっと引いたりした覚えがありますが、そういう部分はあまり変わっていないようです。
やっぱり平気で店の入り口にエロゲーがぽんぽん置いてありますんで。



で、お次は少し裏通りの方へとやってきました。

オレ:ジャンクパーツショップがいっぱいあるな。
相楽:ええ。ちょっとこの辺を見たかったんですよ。


と言うので二人について店に入ると、なにやらワッツ達は2〜3万円ぐらいの中古ノートパソコンを見て相談をしています。

ワッツ:この辺のは解像度が高いんじゃない?
相楽:あー、良いですね。


…何やらIBMの商品ばかりチェックしているようなんですが、安いのを手に入れて改造でもしようというんでしょうか。
素人目にはちょっと分からないことばかりです。


店を後にしてもっと裏の方をうろついていると、露天が目に飛び込んできました。


オレ:おー、DSTTやR4なんかが普通に売ってるなぁ。
ワッツ:露天だからちょっとヤバイのも売ってるんだよ。


…というか普通のお店なんかにも「R4入荷しました!」というどデカい看板が張ってあったりもするので、別に露天だけがヤバイってわけじゃないような気もするんだが。
まぁ、深いツッコミはよしておきますか。


で、ある程度見た所でHDDやファミコンソフトがワゴンに適当に並べられていたジャンクショップを見つけたので、そこをちょっと覗いてみました。

オレ:お、クインティがあるぞ!


クインティ

クインティ


懐かしかったので思わず手にとって見ると、お値段は500円と書いてありました。
500円なら無駄遣いしても良いかと思ったので、皆思い思いのソフトを一本手にとって会計をすることに。
するとここの店員さん達が思わぬことを言い始めました。

店員:店長、これって300円でしたっけ?
店長:ああ? 良いよもう全部300円で。


…という事でファミコンソフトは一気に300円へと値下げされてしまいました。
スゲェな、秋葉原
超どんぶり勘定だよ。

ワッツ:…何かちょっとここ気に入っちゃったから、また来ようかな。
オレ:うん。オレもこんな店が近くに欲しいわ。


思わぬ買い物にホクホク顔で店を出た我々でしたが、ここでその笑顔が恐怖の表情へと変貌してしまうような存在に出くわしてしまいます。
それが何かと言うと、メイド服を着たバーコード禿のおっさんです。
人ごみの中を全く恥ずかしがる気配も無く威風堂々と歩くその様に、どうしようもない畏怖と怖気を覚えると同時に、オレは本能的にその姿から目を逸らしました。


何かこの人と目を合わせたら
生きて宮城に帰れない気がすると思ったからです。


祭りの本番は明日なので、こんな所で死んでなどいられません。
細心の注意を払ってそのおっさんをやり過ごし、そそくさと逃げるようにその場を後にします。
…きっと実際に「世界樹の迷宮」でFOEに出くわす時ってこんな感じなんでしょうな。
いや、秋葉原恐るべし。
「魔都」という名がふさわしいとマジで思ったわ。

それでもボクは釣られない

何かもう疲れたので、アキバ探索はこの辺で切り上げてワッツたちの家へ行くことにしました。
で、駅に戻ってくると何やら大量のメイドが色んなチラシを配っています。
興味本位でひとつ受け取ってみると…

オレ:…何だこれ。絵の展覧会?


何かメイドなど全く関係ないチラシを配っていました。

ワッツ:ああ、それあれだよ。メイド使って絵を買わそうって魂胆だから乗っちゃダメだよ。


…いや、乗らないけど、この街は何でもメイドなんだなと思ってちょっとうんざりしてしまいましたよ。
っていうかこんなので本当に買う奴なんかいるのか?
効果の程を聞いてみたいもんだ。

君住む町で

秋葉原から東京駅で乗換えをし、更に電車に揺られること数十分。
とうとうワッツと相楽の住む街へとやってきました。

オレ:ほう、ここがねぇ…。何かあんまり関東圏って感じがしないな。
ワッツ:そこが良いんじゃないか。


何か雰囲気としてはオレ達が通っていた高校の近辺のような感じです。
微妙に懐かしい気がしないでもありません。

相楽:そういえば最近ここらで通り魔事件があったんですよ。
オレ:え?
相楽:更にコンビニ強盗事件も起きたそうです。
オレ:犯人は?
相楽:まだ捕まっていないそうです。
ワッツ:…いや、オレも初耳なんだけど。


…でもあの街ほど平和ではないようです。
で、折角なのでこのまま家へ直行するのではなく、夕飯などの買い物をしてから向かうことになりました。
まずは今日飲む酒を調達する為に酒屋へと入ります。

オレ:な、何だこれ。


店のビールの棚には「マンゴービール」やら「チョコレートビール」などの変わった一品が置いてありました。

ワッツ:こういう機会だし、飲んでみる?
オレ:…あんまり気は進まないけど、そうするか。じゃあ折角だからオレはこのマンゴービールを選ぶぜ。
ワッツ:じゃあオレはチョコレートビールで。
相楽:なら私はこの海賊ビールにします。


それぞれ会計を済ませ、店を出ます。
そして次にコンビニへ行っておつまみも用意し、準備は完了。
いよいよワッツの部屋へと向かう事になりました。

10 years after

ワッツと相楽。
この二人とはもう10年近く友人をやっていますが、どちらも家に送り迎えに行ったことはあっても部屋に入った事はありません。
言い換えればオレは二人の私生活を見たことが無いという事になります。
まぁ、知らずにいたって何か困る事もありませんし、実際それで10年も問題無く友人をやって来れたんだから今後も知らなくたって構わないんでしょうが、それでも10年も一緒に遊んでいて一度も相手の部屋に入った事が無いというのは友人関係としてちょっと珍しいケースなんではないかとも思います。*1
なので「奴らの部屋を見てみよう」というのも今回の東京ぶらり旅を決めた理由のひとつだったりするのです。
そしてこの度、ついに友人その1であるワッツの部屋へとやってまいりました。

オレ:おおお、これがワッツの城か…。


何か思った以上に奥まった場所にそのアパートはありました。
ここに、彼の東京での人生が詰まっているんですな…。
話によるとワッツはA型で、オレと同じく書籍やCDの蒐集癖があるという事です。
なので相楽曰く「彼の部屋には圧倒される」との事だそうで。
おそらく部屋にはびしーっと図書館のように本が整然と並べられていて、一種の近寄りがたい雰囲気が漂っているのではないかと予想されます。
今日はその部屋如何によってお泊りさせて頂く場所を決めようと思っていたので、そういう部屋だとある種落ち着かないのかもしれません。

オレ:うーん、どんな部屋なんだかなぁ。
ワッツ:まぁ、見てのお楽しみって事で。


そう言ってワッツは静かに部屋の鍵を開けます。
…いよいよ、10年に渡って謎とされてきた事実が明かされる時がやってきました。
促されるままにその内部を覗いてみると…

オレ:…な、なんじゃこりゃあぁぁぁ!?


ワッツの部屋を見た瞬間、オレは我を忘れて叫んでしまいました。



き、汚ねぇ!!


何か予想してたのと全然違うよ!

ワッツ:どうぞ座ってー。


オレ:座れるか! 足の踏み場もねぇよ!
ワッツ:じゃあ、ちょっとどかすから。


そう言ってワッツは部屋の片隅に積み上げていたマンガを台所の方へと運び始めました。
…というか、その台所にも既に大量の本があって今にも崩れそうなんですが。
まぁ何か突っ込むのも癪なので、その代わりにちょっと部屋をぐるりと見渡させてもらいます。


オレ:おま…、何だよこの埃! PS3の上に積もってんじゃんか!!
ワッツ:だって最近遊んでないし。
オレ:ここ来る前に打ち合わせでボイスチャットしたじゃねぇか!


こ、こんなPS3と通信していたのか、オレは…。
というかそれ以前にこの部屋でワッツは通信してたんだな。
今にして思えば信じられねぇ…。

オレ:そしてまぁ何と言うか、凄いポスターだな…。



壁には「AIR」や「らき☆すた」など、彼を象徴する作品のポスターがずらりと貼られています。
うーん、奴の趣味が遺憾なく発揮されていて、実に分かりやすいな。

相楽:どうです? 圧倒されたでしょ。
オレ:違うベクトルでな。


まぁ、何であれここには人が住め泊まれないとオレは判断しました。
多分この調子だと、相楽の家にお泊りだな…。

酒は逃げても飲まれるな

とりあえずようやく腰を落ち着けたって事で、さっき買ってきたマンゴービールを飲むことにしました。
瓶の封を開け、一口胃へと流し込みます。

オレ:こ、これは…。


マンゴーの強い香りとビールの苦味が混ざり合い、お互いの持ち味をことごとく殺しあっている…。

オレ:うえぇぁぁぁぁぁぁ…。案の定まずい…。


まぁ、辛口の酒しか飲まない我が家では有り得ない味だわな。
好きな人には好きかもしれないけど。

相楽:どれ、一口頂いてもよろしいですか?
オレ:あ? ああ、飲むなら飲んでくれ。


もうオレには好きになれそうに無いので、捨てるつもりで相楽に渡してやりましたが…

相楽:…なるほど。悪くは無いです。


と、彼は予想外の答えを返してきました。
…まさかこの味が好きな奴がこんな身近にいようとは。
偶然とは恐ろしいものです。

ワッツ:じゃあ、オレも空けるか。


そう言って今度はワッツがチョコレートビールを開け放ちました。
すると周囲にはむせ返るようなチョコレート臭が。

オレ:うおっ! これは…!!
ワッツ:臭いだけでこれか…!


何かもう既にオレの苦手な甘い香りが毒ガスのように部屋に充満し始めています。
匂いでこれなら味は一体どうなっているのか…。
その答えを出してもらうため、ワッツに責任を持って飲んで頂くことにしました。

オレ:ささ、ぐぐっと。
ワッツ:う、うん…。


意を決したワッツが瓶を口にくわえて一気にそれを逆さまにします。
が、その直後に彼は咽せ、そのまま叫びを上げて伏せてしまいました。

ワッツ:だ、ダメだ…。これはダメだ…。


…うーむ、同じ苦味を持つもの同士上手く引き立てあえるかもしれないと淡い希望を抱きましたが、やはりダメだったようです。
と、ここでマンゴービールを許容した相楽がこのチョコレートビールにも手を出す名乗りを上げてきました。
彼はワッツと違って何の躊躇いも無くビールに口をつけます。

相楽:…うん。これは好きな味ですよ。
オレ:ええええ!?
ワッツ:マジか!!


す、すげぇ…。
マンゴーに続いてチョコレートまで攻略してしまう猛者が世に居ようとは…。
でも何の敬意も表する気が起きないのは何故だろう…?
チョコレートビールを手に満足そうな表情笑みを浮かべる相楽を見て、そう思うオレでした。

HANAMI-ZUが止まらない

どうでも良いんですが、ワッツの部屋に入ってからどうにも鼻水が止まりません。
オレの鼻はハウスダストに敏感なので、きっとそれが原因でしょう。

オレ:おいワッツ。ちゃんと部屋掃除してんのか? さっきから鼻水出るぜ。
ワッツ:じゃあエアコンでも焚くか。


そう言ってエアコンを起動しつつ空気の入れ替えを試みようとしたワッツではありましたが…。

オレ:うお! 何かさっきより鼻水出るぞ! エアコン止めろエアコン!! そしてフィルター掃除しろ!
ワッツ:えー。


…この時点でもうこいつの部屋に泊まるのは不可能だと確信しました。
というか部屋見た時点でそう思ってはいたんで、今更って気もしますけど。
いやむしろそう思いながら何故「部屋掃除してんのか?」なんて聞いたのか…。
まぁ、とにかくこれがきっかけで相楽の部屋へと移動することになりました。

10 years after part2

さて、お次に訪問するのは相楽のお宅です。
彼のお部屋はワッツのアパートから100メートルちょっとしか離れていませんでした。
近いですね。
これなら醤油や味噌が切れた時も安心でしょう。
まぁ、ワッツは自炊してなさそうでしたけど。
ともかく奴と同様、相楽の部屋にも一度も足を踏み入れた事が無かったので、どうなっているのか色々と不安ではありましたが…。

オレ:お、意外と広めだな。それに足の踏み場もある。
相楽:多少は片付けていますので。


でも所々に洗濯物やコンビニの袋とかも散乱してましたけどね。



まぁ、幸か不幸かさっきので多少免疫が出来たので、これぐらいはぜんぜん許容範囲内です。
と言うわけでお泊りさせて頂く場所もここに決め、後は翌日までのんびりまったりする事にしました。

凍てつく棚に踊る陰

昼飯は豪勢に外食だったので、晩飯は少しケチってコンビニで済ませる事になりました。
近場に飯屋も無いそうですし、また電車に乗って出掛けるのも面倒ですし、何より明日の例大祭の資金を少しでも削るのは癪ですからね。
と言うわけで二人に連れられてミニストップまでやってきました。
店内でカップラーメンとおにぎりを見繕い、その他にも何か食えるものは無いかと物色していると、デザートの棚に一瞬見覚えのある文字列が…。
その文字とは「チルノ」の3字でした。
…ば、バカな。
いくらデザートの棚が冷蔵機能によって冷たいとは言え、そこに氷の妖精さんが居るはずなど無い…っ!
「まさか…、いやそんな…」などと思いつつ、その文字を見つけた商品を手にとって確認してみると、そこに書かれていたのは「チルノ」では無く、「チルド」の3文字でした。

オレ:…なぁワッツ。チルドとチルノを見間違えるようになったオレって、もう末期かなぁ。
ワッツ:末期だねぇ…。


オレの周囲には、ただ静かに棚の冷気だけが流れ続けていましたとさ。

千葉のセンス

相楽の部屋に戻って、飯を食いながらテレビを見ていると何やら奇妙なキャラクターが目に飛び込んできました。
それは千葉テレビのマスコットキャラクター「チュバ」です。



チュバ


どうやら千葉とキスの擬音を掛けて唇をモチーフとしたキャラにしたようなんですが、何かどう見ても可愛くありません。
いや、むしろこんなきぐるみに追いかけられたら子供は泣くんじゃないでしょうか?

オレ:いや、何つーか千葉のセンスってすげぇな…。
ワッツ:何!? 今のは聞き捨てならんぞ!
相楽:千葉をなめたらいけませんよ。
オレ:いやいや、オレも別に千葉をバカにするつもりで言ったんじゃないぞ。ただこれを採用するセンスが凄いなと言いたかっただけだ。ほら、他にも最近千葉のロゴとかも叩かれてたしさ。



千葉のロゴ

ワッツ:…それを言われると何も言い返せない。
相楽:そうですね…。


もっとonちゃんみたいなキャラとか候補に居なかったんだろうか。
これ正面から見たら結構キツイだろうに。
ちょっとパプワくんに出てきたタンノくんにも似てるし。
何か生粋の千葉県民にこいつへの人気の程を聞いてみたいもんだ…。

箸を刀に持ち替えて

飯も食い終わったので、ここでちょっくら一狩りする事になりました。
PSPMHP2Gをバッグから取り出して起動します。

オレ:最近ガルルガ装備を作りたくて頑張ってるんだけど、なかなか剛翼が集まらないんだ。
相楽:イャンガルルガですか。良いですね。
ワッツ:なかなか戦わないから、面白そうだね。


と言うわけでガルルガ二頭狩りをする事に決定。
ガルルガの弱点である水属性を備えた太刀「アトランティカ」を持ち、高級耳栓の付いたフルフルZ装備で密林へと向かいます。

オレ:とりあえず尻尾を切って、無理せず1体ずつ叩こう。
ワッツ:うぃ。
相楽:2体同時になったら散会ですね。


と、作戦を練っているうちに奴さんが現れました。
早速一気に近づいて抜刀斬りをし、さっさと錬気ゲージをマックスにします。
そして刃を通りやすくした状態で尻尾を集中攻撃。
片手剣装備のワッツとの連携もあって、あっさりとこれを斬り取る事に成功しました。
これで下拵えは出来たので、後は残りの部位の調理も開始です。
相楽はハンマーで頭を、オレとワッツは翼を潰します。

相楽:頭完了ですー。
オレ:じゃあ翼手伝ってくれ。あと1枚残ってるから。


で、ものの5分足らずで部位も完全破壊して討伐完了。
もう1匹の方も同じ手順であっさりと沈めました。

オレ:さーて、報酬はどうかなぁ?


意気揚々とクエストの報酬を見てみましたが…

オレ:あ、剛翼1枚しかねぇ…。
相楽:物欲センサーバリバリですねwww


何かガルルガ装備までの道のりは相当険しそうですな。

高級耳栓が欲しい

ある程度の数のガルルガも狩った所で、今日は早めの就寝と相成りました。

オレ:明日は早いし、さっさと休むか。
ワッツ:集合は朝の5時で良いね?
オレ:おう。


と言うわけで、オレも相楽からシャワーを借り、さっぱりした所で布団に入りました。
が、考えてみるとまだ頭を乾かしてはいませんでした。
…でも相楽もなんか疲れているようなんで、気を使ってこのまま寝る事にします。

オレ:そんじゃおやすみ。
相楽:おやすみなさい…。


電気を消し、瞼を閉じます。
…明日はいよいよ7年ぶりのビッグサイトです。
あの魔城を再び目の当たりにする時、オレは何を思うのでしょうか。
それが解る瞬間まで、あと数時間です。
決して気持ちで負けない為にも、今は英気を養う事にしましょう。
意識を鎮めて眠ろうとしたその時、隣から突然爆音が。
それは相楽のいびきでした。

オレ:…しまった。相楽のいびきの事を忘れてた。


以前相楽をウチに泊めた時もこのいびきに悩まされたんでした。
慣れない場所でもありますし、これはちょっと今日は寝れないかもしれません…。
まさか例大祭の戦いがこの時点から始まろうとは、夢にも思いませんでした…。

*1:というかむしろ人が集まり過ぎるオレの部屋の方が珍しいケースと言えなくも無い。